久保田他(2026)の日本認知科学会の大会論文集を読みました。

現代の成熟消費社会では、製品の機能以上に意味や体験を伝える「ナラティブ(物語)」の役割が増しているそうです。ナラティブが消費者の情報処理を促し、ブランドとの結びつきを高めることで説得効果を持つ(Escalas 2004)という指摘はとても興味深いと感じます。

この研究では、強い物語性を持つ「伝統工芸品」を対象に、広告における「語り手の視点(ユーザー/職人)」と「物語の内容(現在/過去)」が若年層の評価に与える影響を検証しています。

具体的には、内容として現在の使用場面や体験を描写する「現在ナラティブ」、過去の歴史・伝統・職人の記憶を想起させる「過去ナラティブ」、そして事実を客観的に記述した「客観的記述」の3種類を設定しています。また視点については、受け手の自己参照を促進する一人称の「ユーザー視点」と、贈呈場面などで情報源の信頼性を高める「職人視点」に着目し、それぞれの組み合わせをもとに実験を行っています。

たとえばタオルハンカチの例では、ユーザー視点×現在ナラティブの文章は「水玉模様の門司織ハンカチを広げる瞬間、気持ちがふっと軽くなる。」といった出だしから始まります。一方で職人視点×過去ナラティブでは、「門司織ハンカチに触れると、工房で糸と向き合った日々が静かに胸に戻る」といった始まり方になります。

実験結果として面白かったのは、「広告好意度」においてユーザー視点では「客観的記述」および「現在ナラティブ」が「過去ナラティブ」より有意に高くなった点です。「商品好意度」でも同様の結果が得られたとのことでした。

また、自分用ではなく贈呈用の購買意図においては、「過去ナラティブ」においてのみ職人視点がユーザー視点を上回る現象も見られたそうです。全体の考察では、「自分用購買ではユーザー視点の親近感が、贈呈用の過去ナラティブ条件では職人視点の専門性・信頼性が、それぞれ評価を高めたと解釈できる」としつつ、「情緒的な過去ナラティブよりも、ユーザー視点の現在ナラティブや客観的記述が購買意図を高める傾向がみられた」と述べられています。

実際の広告でも、ユーザー視点で「わたし」と表現されているものをよく見かける気がします。

そういえば先日(8月25日)も、新宿で「わたしとLUMINEの新しい関係。」という広告を見かけました。

新宿で見かけたLUMINEの広告


参考
久保田由香・大庭秀平・岡田政治・白川直・林邦明・山下優樹・松田憲 (2026). 「ナラティブ性とその視点」が広告の効果に与える影響 日本認知科学会第43回大会発表論文集, O4-03.

Keywords
[ナラティブ][広告]